それまでは、違和感を感じた瞬間だけを切り取って考えていた。
引っかかった場面があればその場面だけを思い返し、その都度「気にしすぎだ」と結論づける。
点としての違和感はそうやって処理できていた。
でもある日、本当に些細なきっかけで感覚が少し変わった。
ふとした拍子に過去の出来事が、一本の線としてつながっていくような感覚があった。
意識して思い出そうとしたわけではない。
ただ、何気なく考え事をしている中で自然と浮かんできた。
「そういえば」
頭の中でそんな言葉が浮かぶ。
はっきりした記憶というより、曖昧な映像の断片が順番に現れていく感じだった。
帰りが遅い日。
理由を聞いても、はっきりしない返事が返ってきたこと。
予定を聞いたとき、「まだ分からない」と言われることが増えたこと。
リビングで何をするでもなくスマホを見ている時間が、以前より長くなった気がしたこと。
一つ一つを取り出せばどれも説明はつく。
仕事が忙しいだけかもしれない。
疲れているからあまり話したくない日もあるだろう。
予定が未定なのもたまたま重なっただけかもしれない。
そう考えれば何の問題もない。
実際、その場その場では自分もそう納得してきた。
深く追及する理由はない。
問い詰めるほどの材料もない。
それでも、
思い返す回数が増えている自分にふと気づいた。
気づいた、というより
「もう何度目だろう」と思ったときに初めて自覚した。
何か新しい出来事があったわけじゃない。
昨日や今日、特別な変化があったわけでもない。
過去の出来事を違う角度から見直しているだけだ。
以前なら、
そのまま流していたはずの記憶をなぜか今は、もう一度手に取るように眺めている。
それが自分でも意外だった。
これまでは先に進むことばかり考えていた。
日常は続いていくものだし立ち止まっても仕方がない。
そう思っていた。
振り返ることは
後ろ向きな行為のように感じていたし、あまりしてこなかった。
過去よりも今どうするか。
これからどうするか。
その方が大事だと無意識に決めていた。
でも今は違っていた。
「見落としていたものがあるかもしれない」
そんな気持ちが頭から離れなくなっていた。
はっきりとした証拠が欲しいわけじゃない。
答えを出したいわけでもない。
ただ、
これまで見過ごしてきた何かが
そこにあった可能性を無視できなくなっている。
過去の出来事が意味を持ち始めている。
それが良いことなのか、
それとも余計な考えなのかは分からない。
ただ、
点だったものが線になり始めた
その感覚だけは、確かにそこにあった。
そして一度つながり始めた記憶は
簡単には元に戻らない。
自分が今、
振り返る側に立っていることだけははっきりしていた。
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