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嫁との会話が減った理由を考え続けた夜

その夜、布団に入ってもなかなか眠れなかった。
目を閉じても、意識だけが妙にはっきりしている。

体は疲れているはずなのに、
頭の中だけが休もうとしなかった。

特別な出来事があったわけじゃない。
大きな口論をしたわけでもないし、
嫌な一言を言われた記憶もない。

夕飯を食べて、子どもを寝かしつけて、
歯を磨いて、布団に入る。
いつも通りの夜だった。

それなのに、胸の奥がざわついていた。
静かな部屋の中で、
考えだけがぐるぐると回り続ける。

どうして、会話が減ったんだろう。
いつから、こんなふうになったんだろう。

俺が何かしただろうか。

何気なく言った一言が、
知らないうちに引っかかっていたのか。

冗談のつもりで言ったことを、
傷つけてしまったのか。

思い返してみても、
はっきりとした心当たりはない。
これだ、と思える出来事は浮かばない。

それでも理由を探さずにはいられなかった。

仕事が忙しい時期が続いていた。

帰りが遅くなり家のことを
任せきりにしていたかもしれない。

話を聞く余裕がなくて
適当に相槌を打って終わらせていた夜もあった。

疲れているときに、
ちゃんと向き合わなかったかもしれない。

「あとでね」と言って、
そのまま流してしまったことも一度や二度じゃない。

考えれば考えるほど
全部自分のせいのような気がしてきた。

何もなかったと思っているのは俺だけで、
嫁の中には、積み重なった不満や諦めがあるんじゃないか。

そう考えると、胸が重くなった。

隣では、嫁がスマホを見ていた。
横になったまま画面をスクロールする
指だけが静かに動いている。

暗い部屋の中で、
スマホの光だけがぼんやりと浮かび上がっていた。

その光が、やけに遠く感じた。
同じ布団にいるのに、別の世界にいるような感覚。

声をかけようか、少し迷った。
いや、正直に言えば、何度も迷った。

「最近どう?」
「疲れてない?」
たったそれだけでよかったはずなのに
言葉は喉の奥で止まったままだった。

もし、面倒そうな顔をされたら。
もし、「別に何でもない」と、
そっけなく返されたら。

その瞬間に、自分がこれ以上踏み込めなくなる気がした。

今より距離がはっきりしてしまうのが怖かった。
聞いてしまえば戻れなくなる気がした。

結局、何も言えなかった。
何も言わず、何も聞かず、
ただ時間が過ぎるのを待った。

しばらくして、俺はそっと電気を消した。
部屋が完全に暗くなり音もなく静けさが広がる。

背中越しに感じる嫁の気配。

確かにそこにいるはずなのに以前より少し遠く感じた。
触れようと思えば触れられる距離なのに
その距離が、妙に重く、越えづらく感じられた。

目を閉じても、眠気はこなかった。
天井のない暗闇の中で、
俺はただ、答えの出ない理由を考え続けていた。

会話が減った理由を。
そして、それを聞けずにいる自分のことを。

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この記事を書いた人

「理由は分からないけれど、何かがおかしい気がする」
そんな感覚を抱いたことのある方に、少しでも共感していただけたらと思い、このブログを続けています。日々の出来事や感じたことを、自分なりの言葉で淡々と綴っています。

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