MENU

以前の自分には戻れないと感じた

ある朝、
本当に特別なことは何もなかった。

目覚ましが鳴って
いつも通りに起きて
顔を洗い着替えて
決まった時間に家を出る。

景色も、空気も、
昨日と何一つ変わらない。

違うのは
自分の中だけだった。

以前の自分なら
ここまで考えが進んだら
どこかで引き返していた。

「考えすぎだ」
「深刻にしすぎている」
「元に戻ればいい」

そうやって無意識のうちに
自分を元の場所へ戻していた。

違和感を感じてもそこで立ち止まり
それ以上進まない選択ができていた。

元の感覚。
元の距離感。
元の見え方。

それらをまだ信じられていた。

でもその朝はその発想が
不思議なほど浮かばなかった。

「戻ろう」
という考え自体が
頭に出てこなかった。

戻る場所を
思い出そうともしなかった。

それに気づいた瞬間
胸の奥が静かに沈んだ。

何かを決断したわけでもない。
大きな覚悟を決めたわけでもない。

「もう戻らない」と
宣言したわけでもない。

ただ、
以前の感覚で物事を見ることが
もうできなくなっている。

その事実を淡々と受け取っていた。

無理に前へ進もうともしていない。
何かを変えようともしていない。

それなのに、
戻るという選択肢だけが
自然と消えていた。

それは、
喪失感とも少し違った。

失った、
というより役目を終えた
という感覚に近い。

あの頃の自分は、
あの頃の役割をちゃんと果たしていた。

気づかないことで守れるものがあり
考えないことで保てる日常があった。

でも今は、
同じ方法では同じ場所に立てない。

戻れない、
というより戻る必要がない場所に来てしまった。

そんな感覚だった。

無理に前へ進まなくても
後ろへ戻らなくても
ただ、立っている場所が変わっている。

それだけなのに
世界の見え方は確実に違っていた。

この先、
何が起きるのかは分からない。

何を選ぶのかもまだ決まっていない。
それでも以前の自分には戻れない。

その事実だけがはっきりしていた。
静かで揺るがない断定だった。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

「理由は分からないけれど、何かがおかしい気がする」
そんな感覚を抱いたことのある方に、少しでも共感していただけたらと思い、このブログを続けています。日々の出来事や感じたことを、自分なりの言葉で淡々と綴っています。

コメント

コメントする

目次