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嫁の帰宅時間を意識するようになった

それまでは、
嫁の帰宅時間を意識することなどほとんどなかった。

仕事というものは日によって違う。
早く終わる日もあれば、思った以上に長引く日もある。

それが普通で、当たり前で、
わざわざ確認するようなことでもないと思っていた。

「今日は何時に帰るの?」

そんな言葉を口にする必要も感じなかったし、
聞かなくても問題はなかった。

遅ければ遅いで、
「ああ、今日は忙しいんだな」

早ければ早いで、
「珍しいな」
それくらいの感想しか浮かばなかった。

ところが、
ある日を境に自分の中で何かが変わり始めた。
気づくと無意識のうちに時計を見ている。

まだこの時間か。
そろそろ帰ってきてもいい頃じゃないか。
今日は少し遅い気がする。

そんな考えが頭の中を静かに占領していく。

理由は分からない。
特別な出来事があったわけでもない。
ただ、気づいたら以前よりも
明らかに時計を見る回数が増えていた。

「何時頃になるって言ってたっけ」

ふと、そう思って記憶を探る。

朝、そんな話をしただろうか。
LINEで何か来ていただろうか。
頭の中をなぞってみても、はっきりした答えは出てこない。

聞いていないのか。
聞いたけれど覚えていないのか。

どちらなのか分からないまま、
少しだけ胸の奥がざわつく。

以前なら、
そんな曖昧さは気にも留めなかったはずだ。

分からなければ、分からないままでよかった。
帰ってくれば、それでよかった。

それなのに今は違う。

玄関の外で、
誰かが通る音がすると体が一瞬、ぴくりと反応する。

鍵の音。
ドアノブのわずかな振動。

「帰ってきた」

そう思って無意識に顔を上げる。

でも、
ただの隣人だったり、宅配便だったり、
まったく関係のない音だったりする。

そのたびに、
少しだけ拍子抜けして、
同時に、
なぜ自分がこんな反応をしているのかを考えてしまう。

その反応自体が、
自分でも少し怖かった。

待っているつもりはない。
束縛しているわけでもない。
疑っているつもりもない。

それなのに、
「帰ってきたかどうか」を
こんなにも意識している。

嫁の帰宅時間が、
知らないうちに、
日常の中で確かな位置を占め始めていた。

朝から夜までの時間の流れの中に、
「帰ってくるまで」という区切りが、
自然に入り込んでいる。

それが意味することを、
まだうまく言葉にはできなかった。

ただ、
もう以前のように何も考えずに
過ごすことはできなくなっている。

その変化が良いのか悪いのか
今は判断できない。

ただ一つ確かなのは、
自分の中で何かが静かに動き始めている。
という感覚だけだった。

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この記事を書いた人

「理由は分からないけれど、何かがおかしい気がする」
そんな感覚を抱いたことのある方に、少しでも共感していただけたらと思い、このブログを続けています。日々の出来事や感じたことを、自分なりの言葉で淡々と綴っています。

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