これまでは違和感に気づいても
一度受け流すことができていた。
ふとした瞬間に引っかかる感覚があっても
深く考えずに済ませることができた。
「そんな日もある」
「気にするほどのことじゃない」
「たまたまだろう」
そうやって言葉を重ねれば
違和感は一時的に輪郭を失い
やがて意識の外に追いやることができた。
実際その方法は長い間うまくいっていた。
忙しさに紛れてしまえば
気持ちは自然と落ち着いたし
日常は問題なく回っていた。
でも最近
同じやり方が通用しなくなってきた。
違和感を感じたあと
時間が経っても消えない。
しばらく忘れていたつもりでも、
何かの拍子にまた同じ場所から浮かび上がってくる。
それは強い感情ではない。
怒りでも、悲しみでもない。
ただ、
小さな引っかかりのようなものが、
静かに残り続けている。
会話の途中で生まれるほんのわずかな間。
言葉が途切れたときの沈黙。
相手と視線が合わない瞬間。
微妙にずれた相槌。
以前なら、
意識にすら残らなかった場面が、
なぜか頭に引っかかる。
あとになって思い返してしまう。
「あのとき
自分は何を感じていたんだろう」
そんな問いが自然と浮かんでくる。
気づかないふりをしようとしても
意識がそこに戻ってしまう。
別のことを考えようとしても
完全には切り替えられない。
それが何度も続くと
次第に別の考えが浮かぶようになった。
「自分はいったい何を避けているんだろう」
違和感そのものよりも
それを避けようとしている自分の態度が
気になり始めた。
何かを直視するのが怖いのか。
それとも考え続けた先に答えが出てしまうのが怖いのか。
答えが出てしまえば何かを変えなければならなくなる。
そう感じているのかもしれない。
でも、自分でもはっきりとは分からない。
怖さがあるのかどうかさえ言葉にできない。
ただ一つ確かなのは目を逸らすこと自体が
以前よりも負担になってきているということだった。
見ないようにする。
考えないようにする。
その行為に前よりも多くのエネルギーが必要になっている。
以前は自然にできていたことが今は少し苦しい。
無意識にやっていたはずのことが
意識しないと続けられなくなっている。
気づかないふりができなくなったのは
状況が変わったからなのか。
周囲の環境や人間関係が
少しずつ変化しているのか。
それとも自分の受け止め方が変わっただけなのか。
同じ出来事でも感じ方が変わったのだとしたら、
それは成長なのか、それとも別の何かなのか。
判断はつかなかった。
はっきりした結論は出ないまま
ただ、以前のようには戻れないという感覚だけが残っている。
違和感に気づかないふりをすることが
当たり前ではなくなった。
それが良いことなのかどうかも
まだ分からない。
ただ、何かが確実に変わり始めている。
その実感だけは無視できなくなっていた。
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