調査が始まってから、時間の流れ方が少し変わった気がしていた。
何か特別なことが起きているわけではない。
いつも通り朝が来て、仕事に行き、家に帰る。
日常は何も変わらない。
それでも、自分の中では静かに何かが進んでいる。
どこかで誰かが、嫁の行動を見ている。
その事実だけが、これまでとは違う時間を作っていた。
朝、リビングに行くと嫁がコーヒーを飲んでいた。
「おはよう。今日は早いね、いつもより少し早く起きたの?」
嫁がそう言った。
「うん、ちょっと目が覚めただけ。最近なんとなく眠りが浅い気がする」
そう答えながら椅子に座った。
「最近ずっと忙しそうだよね。仕事のことで考え事でもあるの?」
嫁はそう言いながら自分の顔を少し覗き込んだ。
「まあ、仕事もあるけど、いろいろ考えることが増えてきただけかな」
本当の理由は言わなかった。
今、調査が進んでいること。
それを嫁は当然知らない。
朝の光の中で、いつも通りの会話が続いていた。
「今日は帰り遅くなりそう?夕飯どうしようかと思ってるんだけど」
「たぶん普通の時間には帰れると思う。会議も今日はそんなにない」
「じゃあ、久しぶりにちゃんとご飯作ろうかな。最近バタバタしてたし」
その言葉を聞きながら、少しだけ胸がざわついた。
もし浮気が事実だったら。
この会話は、どんな意味を持つのだろうか。
そんなことを考えてしまう。
会社に向かう電車の中で、窓の外を見ていた。
調査が進んでいる。
そう思うだけで、落ち着くような、落ち着かないような感覚になる。
結果はまだ分からない。
もしかしたら何も出ないかもしれない。
そうだったらいい。
本当にそう思っている。
でも、もし浮気が事実だったら。
その未来も同時に想像してしまう。
昼休み、スマホを見ても特に連絡は来ていなかった。
当然だった。
調査はそんなにすぐに結果が出るものではない。
それでも、どこかで期待してしまっている自分がいる。
早く知りたい。
でも、知るのが怖い。
その矛盾した感情の中で、自分は少し空っぽになっていた。
帰宅すると、嫁はリビングでテレビを見ていた。
「おかえり。今日は思ったより早かったね、仕事少し落ち着いたの?」
「うん、今日はそこまで忙しくなかったから」
そう言ってカバンを置いた。
「それならちょうどよかった。今日ちゃんとご飯作ったんだよ」
嫁は少し嬉しそうに言った。
「ありがとう。最近こういう時間少なかった気がするな」
「そうだよね。なんか最近お互い余裕なかったよね」
その言葉に、少しだけ心が揺れた。
余裕がないのは、自分の中の問題だった。
調査が進んでいること。
浮気の可能性。
離婚という未来。
そういうことが、ずっと頭のどこかにある。
食事のあと、ソファで少し話をした。
「最近ほんと静かだよね。前はもっといろいろ話してた気がする」
嫁がそう言った。
「そうかもしれないな。仕事のことばかり考えてたかもしれない」
「無理しないでよ。なんか一人で抱えてる感じがしてちょっと心配」
その言葉に、思わず視線をそらした。
もし浮気が事実だったら。
この会話は、どうなるのだろう。
嫁は本当に何も知らない顔で話している。
それが余計に、自分の心を空っぽにしていた。
夜、ベッドに入ってからも考えていた。
調査の結果はまだ分からない。
でも、その時間は確実に進んでいる。
その間、自分はただ待っているだけだ。
何もできない。
ただ結果を待つだけ。
その状態が、自分を少し空虚にしていた。
それでも、この時間は必要なのだと思った。
浮気が事実なのかどうか。
それをはっきりさせるための時間。
そして、自分のこれからを決めるための時間。
その夜、自分は天井を見ながら思っていた。
この調査が終わったとき、自分の人生はきっと変わる。
どんな形になるのかは、まだ分からない。
でも、自分はその結果を受け止める準備を、少しずつ始めていた。
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