調査結果を受け取ってから、時間の流れ方が変わった気がしていた。
日常は続いている。
朝は来るし、仕事にも行く。
子どもはいつも通りに笑う。
嫁も、これまでと同じように振る舞っている。
それでも、自分の中では、確実に何かが終わりに近づいている感覚があった。
浮気という事実は、もう覆らない。
マッチングアプリで知り合った五つ年下の男。
工場勤務の男性。
名前も、顔も、行動の記録もある。
知らなかった頃には戻れない。
その現実の中で、初めて考えた。
もし別れたら、自分の人生はどうなるのだろうか。
これまでは、離婚という言葉を考えるたびに、思考を止めていた。
まだ早い。
まだ決める段階ではない。
そうやって、自分に言い聞かせてきた。
でも今は、避けられなくなっていた。
夜、一人でリビングに座りながら想像してみた。
この家に、自分だけが住む未来。
子どもと二人で過ごす日常。
あるいは、子どもがいない時間。
家具の配置は変わるのか。
このテーブルはどうなるのか。
現実的なことばかりが浮かんだ。
寂しさよりも先に、不安が来た。
収入、生活費、養育費。
冷静に考えなければならないことが、山ほどある。
感情だけでは決められない。
でも、別れない未来も同時に考えた。
浮気をした嫁と、このまま夫婦として続ける未来。
何もなかったかのように生活する。
本当にそれができるのか。
嫁がスマホを触るたびに、相手の男を思い出さないだろうか。
帰りが少し遅いだけで、疑わない自分でいられるのだろうか。
信じるという行為は、意志だけでは成立しない。
裏切られた事実は、消えない。
ソファに座る嫁の背中を見ながら、考えていた。
「何考えてるの?」
突然、嫁に聞かれた。
少し驚いた。
「仕事のこと」
そう答えたが、本当は違った。
仕事のことではなかった。
自分の未来のことだった。
嫁と別れた先に、自分はどんな顔をしているのか。
後悔しているのか。
それとも、安堵しているのか。
どちらも想像できた。
子どもの寝顔を見ながら、胸が締めつけられた。
この子にとって、何が正しいのか。
離婚は、子どもにとって負担になるかもしれない。
でも、形だけの夫婦を続けることが、本当に正しいのかも分からなかった。
自分が笑えていなければ、意味がないのではないか。
友人の言葉を思い出した。
「お前がどう生きたいかだ」
その問いが、ずっと頭の中にある。
今までは、「どうすれば丸く収まるか」を考えていた。
でも、少しずつ変わってきている。
「自分はどう生きたいか」を考えるようになっていた。
嫁と別れた未来は、怖い。
経済的な不安もある。
世間体もある。
孤独もあるかもしれない。
でも、裏切られたまま我慢し続ける未来も、また怖い。
浮気という事実を抱えたまま、何年も過ごす自分を想像してみた。
その姿は、どこか疲れ切っていた。
怒りも悲しみも、表に出さずに飲み込んでいる自分。
それは、自分がなりたい姿ではなかった。
まだ決断はしていない。
でも、初めてはっきりと、別れた先の未来を考えた。
逃げずに、具体的に。
それは、覚悟に近づく行為だった。
嫁と別れた先にも、人生は続く。
幸せかどうかは分からない。
でも、自分の選択で進む人生にはなる。
そのことを、少しずつ理解し始めていた。
もう、何も考えないふりはできない。
未来を想像すること自体が、自分が前に進んでいる証のように感じていた。
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