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同じ家にいるのに話す時間が減った

同じ家に住んでいる。
同じ屋根の下で毎日顔を合わせている。

朝、起きて挨拶をする。
夜、帰宅して声をかける。
必要な言葉はちゃんと交わしている。

それなのにゆっくり話す時間が確実に減っていた。

気づけば夕飯の時間がずれる日が増えていた。
全員そろって食卓を囲むことが少なくなっている。

子どもが先に食べ終わり
そのまま風呂に入る。

どちらかが後から食べて
片付けも別々のタイミングになる。

同じ料理を食べているはずなのに
同じ時間を共有している感じがしなかった。

子どもを寝かしつけたあとも
それぞれが別のことをしている。

俺はリビングでテレビをつける。
内容に強く興味があるわけじゃない。
ただ、無音が落ち着かなくなっていた。

嫁はソファに座りスマホを見る。
画面をスクロールする指の動きだけが
静かな部屋の中でやけに目立つ。

同じ空間にいる。
距離も物理的には近い。
それなのに会話はほとんどない。

沈黙が嫌なわけじゃない。
昔は黙っていても平気だった。

それぞれが自分のことをして
同じ空気の中にいるだけで
不思議と安心できた。

言葉がなくても
繋がっている感覚が確かにあった。

でも今は違う。

沈黙が少し重い。
静かすぎて何かを見落としているような気がする。

沈黙の中に、
「何か言わなければいけない」
そんな気配が漂っている。

今日あった出来事。
仕事の話。
子どものこと。
話題がないわけじゃない。

いくらでも口に出せるはずのことはある。

それなのに切り出す勇気がなくなっていた。

今、話しかけていいだろうか。
邪魔じゃないだろうか。
この空気を壊してしまわないだろうか。

そんなことを考えているうちに
タイミングを逃してしまう。

気づけばテレビの番組が終わり、
スマホの画面が暗くなり、
そのまま夜が終わっている。

会話が減った理由は分からない。
はっきりとしたきっかけも思い当たらない。

喧嘩をしたわけでもない。
何かを決定的に失ったわけでもない。

ただ、少しずつ、
本当に少しずつ、
話さなくなっていった。

その変化に気づいたときには、
もう元に戻し方が分からない場所まで来ていた。

減っている理由は分からない。
でも、減っているという事実だけは
はっきりしていた。

同じ家にいるのに、
同じ時間を過ごしているはずなのに、
心の距離だけが静かに、確実に広がっている。

俺はそのことを
もう誤魔化せなくなっていた。

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この記事を書いた人

「理由は分からないけれど、何かがおかしい気がする」
そんな感覚を抱いたことのある方に、少しでも共感していただけたらと思い、このブログを続けています。日々の出来事や感じたことを、自分なりの言葉で淡々と綴っています。

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