記録を続けることで、
頭の中はある程度、整理できていた。
何が起きているのか。
どんな状況が、どれくらい続いているのか。
どこに違和感があって、
どこが以前と変わっていないのか。
それらを言葉にすることは、
もうそれほど難しくなかった。
事実を拾い、並べ、
状態として捉えることには、
慣れてきていた。
ただ、
その過程で、
一つだけ置き去りにしていたものがあった。
自分の気持ちだった。
嫁の行動に違和感を覚えたとき、
最初に湧いた感情は不安や疑念だった。
なぜそう感じたのかは、
すぐには説明できなかった。
でも、
胸の奥に引っかかるものがあった。
何かがおかしい、という感覚。
今までとは違う、というざらつき。
それは、
理屈よりも先に出てきた反応だった。
でも、
その感情をそのまま扱うのが怖かった。
疑うということ。
相手を信じきれないということ。
その感覚を持つ自分を
自分自身が信用できなかった。
間違っているかもしれない。
思い過ごしかもしれない。
自分の心が弱っているだけかもしれない。
そう考えるほど、
感情そのものが扱いづらいものになっていった。
だから、
気持ちよりも先に整理を選んだ。
事実を集める。
記録を残す。
冷静であろうとする。
そうすれば、
間違った判断をせずに済む。
感情に振り回されずに済む。
少なくとも、
自分を責めずに済む気がしていた。
そうすることで、
感情を一旦脇に置いた。
疑っている、という感覚。
裏切られているかもしれないという恐れ。
それらを、
まだ触れなくていいものとして
心の奥に押しやった。
抑え込んだ、
というより後回しにしていたのだと思う。
今はまだ向き合えない。
もう少し整理が進んでから。
事実が揃ってから。
そうやって、
気持ちに順番をつけていた。
でも、
気持ちは消えなかった。
置き去りにしたまま、
ずっとそこにあった。
静かにでも確かに。
記録が増えるほど、
頭は静かになっていった。
考えは整い見通しもよくなっていった。
その分、
感情の居場所が少しずつなくなっていった。
書かれていない感情。
扱われていない不安。
言葉にされない恐れ。
それらが、
どこにも行けないまま
溜まっていく感覚があった。
整理は進んでいるのに
心だけが追いついてこない。
頭では理解しているのに
気持ちは取り残されている。
そんな感覚が、
徐々にはっきりしてきた。
ここまで来て、
ようやく気づいたのだと思う。
自分は、
気持ちを無視していたわけではない。
ただ、
置き去りにしていただけだった。
でも、
置き去りにされた気持ちは
いつか必ず追いついてくる。
その予感だけが静かに残っていた。
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